22.06.04 レカペ2 アレトミ展示SS

キスをしたら噛まれるなんて、冗談じゃない。
ずきずきと痛む上唇に指で触れると、滲んだ血でぬるりと滑る。

「痛ってぇ……俺、こんなの初めてなんだけど」
ねじ込んだ舌を噛まれるよりはマシかもしれないが、しばらくの間赤黒く腫れそうだ。
どこのどいつにやられたんだと聞かれたら、懐かない猫だって答えてやろう。

「僕だってそうだよ」
ツンとしたトミーの態度。俺じゃなくて他のやつらなら、みんなこの瞬間に諦めてるだろうな。俺の勝ちだ。
「そうか、なら俺がその”初めて”だよな」
「うわ……
顔を顰めたトミーが一歩後ろに下がり、俺から距離を取った。
そんなの、手を伸ばしたらすぐに捕まえられるけど。

「君が誰にでも、こういうことをするって知ってる」

――まぁ、間違っちゃいないよな。

馬鹿にするなと言いたげな、ひんやりとしたトミーの目がこちらを睨む。
まだカーテンの隙間から光が差し込まない、薄暗い朝。ベッドの中でその瞳を見つけてみたい。

「俺は本気だよ。嘘じゃない」
「そんなの信じない」
「わかった、もうしねぇよ。今度からは、”キスしていい?”って聞くから」
「いらない。聞かれても許可しない」
トミーの言葉の端々から、「お前のそういうところが気に入らないんだ」って感情がひしひしと伝わってくる。

こんなこと、本当の本当に初めてなんだ。
言うこと聞くよ、できるだけ。
なんでもするよ、約束するから。

「好きなんだ」
「みんなに言ってる」
「言わないよ、もう」
「やっぱり言ってたんだ」

どうやったら信じてくれるのかわからない。
どっかのインディーゲームの難易度SSSみたいだって言ったら、フーディーのポケットから飛び出した拳でぶん殴られそう。

まどろっこしいし、めんどくさい。
でも、その時間も俺のものにして、一つ残さず味わいたいとも思うんだ。

「俺さぁ、お前が俺に好きって言って、そんで笑ってくれたら、ちょっと泣くかも」
「勝手に変な妄想しないで」
変なやつ、と呟いて目を細めたトミーが鼻で笑う。
俺って変なやつだったのか。
俺のことをこんな扱いするトミーも相当変だから、俺たち相性いいんじゃないの?

「なぁ、キスしていい?」
「嫌だよ」